「3G経済」の投機マネー 金融史上「3大バブル」と呼ばれるもののうち、最初の「チューリップ・マニア」が起こったのは1636年頃、オランダでのことでした。(日本ではこの年、鎖国令が出ています。)
珍しいチューリップの球根が高値で売れるとの期待で、球根の先物市場が過熱し、短期間で消滅したというできごとです。(どこまで史実か、疑う向きもあるようです。)その次のものが、1719年フランスの「ミシシッピ・バブル」でした。「ミシシッピ会社」は、アメリカのルイジアナ植民地の開発の権利をフランス政府から許諾されましたが、バブルになったのはその部分ではなく、この会社がフランス政府の債権を肩代わりするという複雑なスキームの部分で、植民地開発はぜんぜん儲かっていなかったというより、まともにやっていたのかすら怪しいようです。翌年1720年には、イギリスで似たようなスキームで、3番目の「南海会社バブル」(南米の開発会社との看板だった)があります。
ともあれ、この時期の植民地開発は、このように政府から開発許可や通商権利許諾をもらった民間会社が、民間資金を集めて植民地に投資するというスタイルが多くとられておりました。その典型例が「東インド会社」です。アメリカ大陸の開発も、一攫千金を狙ったヨーロッパの投機マネーによる「土地投機」という性格が強いものでした。
ミシシッピ会社と南海会社はほとんど詐欺で、他にも口先ばかりの泡沫会社がたくさん浮かんで消えましたが、それでもまともな会社もあり、成功する例もあります。1690年、日本では「生類憐れみの令」などというアホなことをやっていた頃には、もうロンドン証券取引所ができており、企業への株式投資という仕組みはこの頃から定着していきます。
この投機マネーの正体は、私の定義による「3G経済」の国々(オランダ、フランス、イギリスなど)において、自分たちで毛織物などを作って売る「メイカー的な人達」が勃興したために、それまでの「2G経済」と比べてはるかに多くの人達が小金を持つようになり、「産業投資家」の裾野が広がってだぶついた資金、であると思われます。クリストファー・コロンブスはスペイン女王の資金を使いましたが、イギリスやオランダのアメリカ植民地開発は民間人と民間資金がおもに担いました。ジョージ・ワシントンも、ベン・フランクリンも、パトリック・ヘンリーも、みんな「土地投機家」でした。ここが、日本の戦国時代の国盗り合戦と根本的に違うところで、宗主国の政府が税金を投入して開発したのではないのです。(もちろん、防衛などにそれなりに税金は投入したでしょうが。)
バブルが産んだ国
産業革命でその傾向はますます強まり、19世紀の前半、イギリスで鉄道が大発展したのは、「鉄道は儲かる」ということで、株式市場が盛り上がったためです。鉄道の敷設は、回収期間が長く大きな額の先行投資が必要で、多くの人が参加することでリスクが分散するというメリットは確かにありますが、「祭りになって勢いでやってしまった」という面もありそうです。そのあと、19世紀後半にはアメリカで鉄道投資ブームが起こり、レランド・スタンフォードのような鉄道王たちが大金持ちになり、勢いでカリフォルニアまで鉄道が伸びてしまいました。その後バブルが弾けて没落する人は多いですが、「勢い」で短期間に資金を投入してインフラを作らなければ、なかなか新しいモノへの長期投資は動かないというのもまた事実で、そのために投機やバブルも「仕方ないよね」と考える人は(特にアメリカでは)多くいます。(かつての日本のように、政府が主導で先行投資して成功するのは、イギリスやアメリカなどの先例があったからできたことです。)
ニューヨーク証券取引所は1790年代にその前身ができました。1860年代には南北戦争の「戦争景気」、その後は鉄道ブームやエジソンなどの新技術ブームで沸き、一発当てれば大金持ちだと思うから新技術をみんな競って発明しました。
ヨーロッパ人がこの大陸を発見して以来、この国にやってくる人は筋金入りのアントレプレナー、資金は投機マネー、もうとにかく国そのものがバブル景気の勢いで作られたようなものです。歴史学者エドワード・チャンセラーは「アメリカは投機の国であり、その株式市場では誕生の直後から相場師が活躍し、旧世界では類を見ないほどの規模で相場を張っている」と述べています。
全体的に、90年代の「インターネット・バブル」を思い出します。
19世紀後半から20世紀初頭のアメリカでは、こうしてインフラの発達により、農業や工業という「実体経済」が急成長し、人口が増えて需要が増大し、経済が拡大していきます。サンフランシスコでは1906年に大地震が起こりますが、むしろその後の建設ブームにつながったくらいで、あまりダメージはありませんでした。お金持ちになった人達はますます資金を株式市場に投じ、相互作用で株式市場は過熱していきます。そしてやがて、大恐慌がやってきます。
<続く>
出典: エドワード・チャンセラー「バブルの歴史」